Q.共有物分割請求が権利濫用となり認められない場合はどのような場合ですか
A.不分割特約がある場合、共有物分割請求が権利濫用と評価される場合です。
不分割特約とは
民法では、「各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。」(民法256条1項)と規定しており、共有物について一定期間分割しないとの約束をすることも有効です。 この不分割特約の効力は、登記していれば、共有物の譲受人にも対抗することができます。
権利濫用とは
共有不動産の持分を所有している場合には、不分割特約がない限り、共有持分権者はいつでも共有物の分割請求をすることができます。このように、共有物分割請求は、法律によって認められた権利なので、基本的には制限されることはありません。
しかし、法律上認められた権利であってもそれをどのような方法で使っても良いと言うことではありません。
他者に著しい不利益を与えるだけのものや不合理な結果をもたらす権利行使の場合には、たとえ正当な権利の行使であっても制限を受ける事があります。
このように、不合理な権利行使のことを「権利濫用」と言います。権利濫用は、民法1条3項によって禁止されています。
権利濫用になったケース
共有物分割請求権の行使であっても、それが権利濫用になる場合には認められないので注意が必要です。
そこで以下では共有物分割請求が権利濫用になった裁判例をご紹介します。
ケース1
まず、東京高裁平成25年7月25日の判決があります。
この事案では、母親と息子がマンションを共有しており、母親は長年そのマンションに居住していました。息子は専門学校に通いたいがため、マンションの共有物分割請求を起こし、競売によってマンションを分けたいと主張しました。
母親には資力がなかったため分割方法は競売しか考えられない事案でしたが、そうなると母親の住む場所がなくなります。この件では、裁判所は息子の請求を権利濫用として認めず、共有物分割請求が棄却されました。
ケース2
次に、大阪高裁平成17年6月9日の判決があります。
これは、別居中の夫婦が自宅の土地建物を共有していた事案です。妻と子どもはその家に住んでおり、夫は妻に対して共有物分割請求をしました。
ここで、もし競売が認められたら、妻と子どもは住む家を失うことになります。
本件で裁判所は、夫が妻子を見捨てて家を出て行ったことや夫に十分な収入があること、競売になったら妻子が住む場所を失うことなど理由として、夫の請求を権利濫用と認定し、共有物分割請求を棄却しました。
ケース3
東京地裁平成19年1月17日判決では、共有物分割が認められると、成年被後見人が住む家を失い、自分の生活費や必要な医療費を支払えなくなって不利益が大きいことなどを理由として、やはり原告の共有物分割請求を権利濫用として棄却しました。
このように、相手が住む家を失い一方的に不利益を受けるようなケースでは、共有物分割請求が権利濫用として認められない可能性があります。夫婦の離婚問題と絡む場合にも、権利濫用と認定されることが比較的多くなっています。
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