家賃を支払わない賃借人がいます。どうすれば解決できますか
1 早期に全額を請求して未納を解消しましょう。
2 裁判提起・強制執行による強制的な建物明渡が可能です。
3 相手との合意による解決もメリット・デメリットを考えて実行しましょう。
回答者:弁護士 佐藤 寿康
家賃の支払がなされない事態になると、貸主にとっては大きな損害になります。アパートやマンションの一室かそれとも一棟の建物か、居住用不動産であるか事業用不動産であるかにかかわりません。
1 家賃の滞納が少額であるうちに対応すること
家賃の支払がなされなかった理由が、単に忘れていたとか、一時的に多額の支出が必要になった(医療費など)といったことであるかもしれません。
そのような場合は、未納の事実を借主に伝えれば、滞納がなくなるかもしれません。
しかし、滞納額がそれなりの金額に達していた場合は、借主が滞納を解消する意欲が減退、消失してしまうかもしれません。また、そもそも、支払うお金を持っていないということもありえます。
したがいまして、家賃の滞納が少額であるうちに、貸主から借主へ通知することが望ましいといえます。
具体的には、まず、貸主ご自身が毎月の家賃の入金状況をチェックしていくのをお勧めします。
管理会社に全面的に任せてしまい貸主ご自身は無頓着というのは望ましくありません。家賃の遅れがあることに気付いたときには速やかに通知督促を管理会社に要請し、借主の対応状況などを確認するというのも一方法です。
2 家賃の滞納が恒常的になったときの対応
一方、借主が家賃支払さえ困難な経済状態に陥るなどして支払う意思を完全に失い、借主が家賃の支払を自分の意思で行うことが全く期待できなくなる事態に至ることがあります。
こうなると家賃の未払は長期化します。積み上がった滞納家賃をどのように回収するかよりも、未払家賃の発生・拡大を早期に止めること、言い換えればできるだけ貸主が被る損害を拡大させないことに重点をおくべきです。未納家賃額が拡大していく状況になったとき、滞納家賃の回収を行おうにも借主はそれに足りる資産をもっていないのが通常です。なんとなく猶予したままにし続けると、気付いたときには滞納家賃の総額が相当なものになっています。
未払家賃の発生を早期に止めるために、早期の明渡しを実現することを目指すことになります。明渡しが実現するまでは貸主所有のその不動産が全く利用、運用できていないのと同様です。
なお、貸主が物件内に進入したりさらに物件内の物を処分したり、借主に無断で鍵を交換したりするなどの実力行使をしてはいけません。法律の手順を経ずに権利の実現をすること(自力救済)は禁止されています。
3 明渡し実現に向けた原則的な手順
⑴ 滞納賃料の請求及び賃貸借契約の解除
- 指定の期日までに滞納分の家賃の支払を行うよう請求するという趣旨を記載した書面を送付します。滞納家賃の請求を行い、その請求を受けたことを借主が認識したという事実を後に証拠化する必要があります。したがいまして、書面の送付は配達証明付きの内容証明郵便ですることが必要です。
- 書面で請求を行った後も指定の期日までに支払がなかったときは、賃貸借契約解除を行います。これも配達証明付きの内容証明郵便で行うことが必要です。
なお、具体的な事案によりますが、解除の内容証明郵便が到達した時点で滞納賃料が3か月分以上に達していると、後の訴訟で解除が有効とされる可能性が高いです。
⑵ 明渡しの訴訟提起
賃貸借契約解除の内容証明郵便が借主に配達されたが借主が退去しないとき、民事訴訟を提起して判決を取得することを目指します。
⑶ 強制執行
退去を命じる判決が出た後も借主が退去しないときは、強制執行の申立てを行い、裁判所の執行官の指揮のもと、強制的な退去を実現させます。
※以上は原則的な手順です。常にこのような手順で行わなければならないとは限りません。
4 任意の退去の可能性を検討すること
以上のとおり判決を取得し強制執行申立ての手続を行うことにより強制的な退去を実現することができますが、ここに至るまでには時間と手間が必要です。
退去が実現するまでの間、その建物はただで使わせているに等しい結果になりますし、当然ですが別の人に貸すということもできません。
また、強制執行手続に当たっては建物内の物品、荷物を搬出したり処分したりする費用を要します。こうした費用は借主に対して請求する権利があるのですがこの段階まで至った借主が支払能力を有していることはまずありませんから、全て貸主の負担となる確率が高いです。
そのため、任意の退去が実現することを模索し、結果として貸主の負担も軽減することを目指すべきです。
・滞納賃料が増えてきたとき
・借主に対して内容証明郵便が届いたとき
・訴訟手続が進行しているとき
・判決が出たとき
などの各段階において借主と交渉を行い、〇月〇日までに退去したときは滞納賃料の支払義務を一部または全部を免除するなどといった内容での合意を目指すことも選択肢の1つです。
成現実に借主が自分の意思で退去すれば、時間や手間や費用の負担を、強制執行による退去が実現したときに比較して軽減することができます。
5 連帯保証人が重要です。
滞納賃料が嵩んだことにより借主に退去を求める事態になったとき、支払能力を有する連帯保証人がいれば、連帯保証人に対し滞納賃料等の支払を請求することにより、滞納賃料の一部または全部を回収が実現し、損害の拡大を防ぐ結果につながることがあります。
しかし、滞納賃料の全部や強制執行手続に要した費用全部を回収できるとは限りませんから、連帯保証人がいるからといって、なんとなく滞納を猶予したままにすることはすべきではありません。むしろ滞納が生じ始めたころから、連帯保証人にその旨を通知しておくほうが一般的には望ましいといえます。