3年前に父から土地を譲り受けました。その土地上には弟名義の建物が建っています。父と弟との間で地代の授受がされたことはありませんでした。この度、弟が亡くなりましたが、弟の妻と子が引き続きその建物に住んでいます。建物を取り壊してもらうことはできますか。
この場合、あなたと弟の妻の間で使用貸借契約が成立していると考えられる可能性があります。その場合には、使用貸借の目的(居住)を達成するまでの間、建物の取り壊しを求めることはできません。
回答者:弁護士 大澤 一郎
使用貸借は、借主の死亡によって終了する
本件では、弟とその妻は、相談者の土地上に建物を建てて居住しています。弟は、父にも相談者にも地代を支払っていないので、相談者と弟の関係は「使用貸借」という契約関係になります。使用貸借とは、無償で他人のものを使わせてもらう契約です。
そして、使用貸借契約は、借主の死亡により終了します(民法599条)。使用貸借の借主の地位は、相続されないからです。とすれば、借主である弟が死亡した以上、使用貸借契約が終了し、相談者は弟の妻に対し、建物の収去と土地明け渡しを請求できるとも思えます。
弟の嫁との間で使用貸借契約が存続している可能性
しかし、裁判所は、こうした事例において、建物収去土地明け渡し請求を否定しています(東京高裁平成12年7月19日)。
この事案は、親が息子に土地を貸して、息子が土地上に建物を建てて妻と居住していたものです。息子が死亡したので、親が息子の嫁に建物収去土地明け渡しを求めたところ、裁判所は、「父と息子のみならず、父と嫁との間にも使用貸借契約が成立しているため、息子の死亡を理由として使用貸借関係が終了したとは言えない」として、請求を棄却しました。
本件でも、これと同じ状況ですので、相談者と弟の妻との間で使用貸借契約が成立していると考える余地が十分にあります。
よって、使用貸借契約を一方的に解除することはできず、弟の妻や子どもに建物の取り壊しを請求することはできません。
使用貸借が終了する時期
それでは、使用貸借契約は、いつまで継続するのでしょうか?
本件のような、期限のない使用貸借契約の場合、「契約に定めた目的に従って使用収益を終えたとき」に目的物を返還すべきとされています(民法597条2前段)。
本件の建物は明らかに居住目的ですが、居住目的による使用収益を終えるのは、建物が滅失するか朽廃した場合などです。
そのような事情が起こらない限り、弟の妻や子どもに建物収去土地明け渡しを請求することはできません。
ただし、貸主と借主の関係が極めて悪化した事例などでは、人的なつながりを考慮して、使用貸借に必要な期間が終了したと認められることもあります(参考判例 最高裁平成11年2月25日)。
以上のように、無償で土地を貸し借りしている場合にも、いろいろな法的トラブルが起こります。お困りの場合には、不動産問題に強い、よつば総合法律事務所の弁護士まで、お気軽にご相談下さい。